はじめまして、同志社女子大学看護学部成人急性期看護学領域の天野功士です。今回は、私たちの領域で行っている視線計測の研究をご紹介させていただきます。
視線計測では、被験者がどこをみているか(注視時間、注視回数)、何をみているか(注視箇所)を明らかにすることができます。また、どのような順序でみていたか(視線軌跡)を知ることで、認知プロセスの一部を推定することができるとされています。
視線計測は、これまでに、人間工学、スポーツ、医学などの分野において用いられてきました。例えば、人間工学の分野では、自動車運転中のドライバーの視線を計測し、運転手の危険の認知に関する研究が行われています。また、スポーツの分野では、熟練者と初心者を比較し、熟練者がどのように周囲の状況を把握し、動作に繋げているかを明らかにする研究などが行われています。このように、視線計測では、これまで難しいとされてきた対象者の認知プロセスの一部を推定することができ、今後さらなる研究の発展が期待されています。
看護の分野においても、熟練看護師の技を可視化するために視線計測を用いた研究が増加しつつあります。そのような中で、私たちの大学では、視線計測機器を用いて、患者さんの全身状態を観察する際の熟練看護師の視線を明らかにし、学部学生の臨床場面における観察力を高めるための研究に取り組んでいます。例えば、全身麻酔手術直後の全身状態の観察時の視線から、熟練看護師は顔を見る回数・時間が多く、患者の意識レベルを優先的に確認し、随時患者の状態の変化を観察していることが明らかとなりました。また、熟練看護師の認知プロセスとしては、意識レベルから始まり、バイタルサイン、創部・下肢・点滴類へと視線が移動していくことが明らかとなりました。このようなことから、学部学生には、患者の状態の変化を予測しながら優先度を考え観察を行うよう指導していく必要性が示されました。
これからも、視線計測を用いてこれまで暗黙知とされてきた熟練看護師の技を可視化し、学生の教育につなげる研究に取り組んでいきたいと考えております。ご興味のある方は、ぜひコラボレーションしてみませんか。