概念【看護実践と理論の統合】との出合いと授業研究
ある看護大学では，実習の授業構成として，各々の実習科目の前後を「看護実践と理論の統合（演習）」という科目名でサンドイッチにして実習を組んでいた。
「看護実践と理論の統合（演習）」➡「看護実践（実習）」➡「看護実践と理論の統合（演習）」
この「実践と理論の統合」という概念に出合い，学生時代に恩師から教えて頂いた光景が頭にぼやーっと浮かび，そして「看護は実践の科学」を如何に教授するのか。授業内容と方法論の検討が必要だと強く感じた。
看護学実習の目的は，「看護実践と理論（知識）の統合」を図ることとし，その統合する思考ができれば，専門領域が異なっても学生は，既習の知識を実際の場面にこの思考を応用して，看護実践ができるようになると考えた。「看護実践と理論の統合」とはどのような現象であるか。教員はどのような指導をしているのかを探るために，仲間と研究に取り組み，幾度も議論を重ね3)，10年以上かかり，「小児看護学実習において『実践と理論の統合』を必要とする学習課題の構造」4) を仕上げた。この研究論文には，どの看護学領域でも遭遇するであろう，【健康障害に対する知識の活用不足】となっている『病態を踏まえた症状や治療の理解ができない』学習課題や，【初学者の思考スタイル】には『事実と一般知識を照合しないまま判断する』短絡的思考がみられ，大変面白く感じた。小児看護特有では，【子どもの表現の真意の理解不足】，【子どもの反応と症状との関連の検討不足】，【子どもとの人間関係スキルの未熟さ】と【子どもに適したアプローチ方策の立案困難】などの学習課題があった。
「実践と理論の統合」は頭を働かさないとできず，思考を育てることであると気づいた。また，実習の効果的を上げるためには，実習だけに着目するのでなく，学内授業とつなぐ授業設計が重要と考え，段階的な学びができるよう授業を設計し教育実践を行ってきた。学生の思考力強化を目指した教育方略の開発をテーマにJSPS科研費助成を受けて，『小児看護学実習指導ガイドライン 考える学生を育てるコツ（文芸社）』5) を出版した。この書籍は，１部：看護学実習の組み立て，２部：実習に向けた授業づくり，３部：実習施設との協働・連携，４部：実習指導の実際，５部：教育評価の構成で，実習に関する一連の内容を網羅している。小児看護学だけでなく他領域でも使えるガイドラインになっている。是非，ご一読いただき，学生の思考を育てる教育実践を楽しんでいただきたいと思います。「実践と理論の統合」の思考は，研究的思考に発展していると思います。
昨年6月からリレーブログを書かせてもらい，研究学会及び地方会と関わりを通して自分自身の教育研究者としての歩みを振り返ることができたことを感謝しています。日々の実践を思い返す思考と，それを研究的に組み立てる思考は同じ知的作業だと確信がもてました。看護職として日々の実践を思考することの楽しさを味わうと，次に思索へと進むと思います。このような経験を地方会の皆様と語る機会がある事を願い，リレーブログのシリーズを終わります。書かせていただきありがとうございました。
【文献】
3) 増尾美帆，泊祐子，竹村淳子，岩間恵，西薗貞子，山地亜希，山田恵子，神道那実，野口賀乃子，大西文子（2016）．小児看護学実習における看護実践と理論を結びつけるための指導方法の検討，日本看護学教育会誌，26(1)，79-88．
4) 泊祐子，大西文子，竹村淳子，西薗貞子，川島 美保（2020）．小児看護学実習において「実践と理論の統合」を必要とする学習課題の構造，日本看護科学会誌40，474-483．
5) 泊祐子，小児看護教育方略研究会(2023)：小児看護学 実習指導ガイドライン 考える学生を育てるコツ，文芸社.
